売上高100億という目標は、各社にとって単なる数字ではありません。人材、投資、技術、組織を根本から再設計して初めて到達できる水準です。
山口県では100億宣言を行った中小企業の成長を後押しし、地域連携を活性化することを目的に、企業や地域の人々がつながる場が生まれています。山口で挑戦を続ける4社の経営者たちは、それぞれの立場で試行錯誤を重ねながら、この目標に真摯に向き合っています。
新光産業株式会社|
現状維持は衰退。工場移転という覚悟で示す未来への投資
1935年創業の新光産業株式会社は、山口県宇部市を拠点に、土木建築工事と熱交換器・圧力容器の設計・製造を手がける総合企業です。建設、鉄構、機械、加工技術、EICの5つの事業部を展開し、現在の売上高は87億円。同社がめざすのは、2029年に100億円、さらに2034年には現在の約2倍となる175億円です。
代表取締役社長の沖将介氏は、2024年4月に社長に就任しました。
「現状維持は衰退を意味します。建物も機械も、30年、40年と経てば古くなる。それをごまかしながら使っていたら、次の世代が困る」
沖氏が打ち出したのが、機械事業部の工場移転という大規模投資でした。投資額は売上高の半分以上という規模。
「これだけの金額を投資する以上、社員にも対外的にも覚悟を示す必要があった」
それが100億宣言だったといいます。
当初は移転に反対する声もありました。しかし、新しい工場と設備の具体像が見え始めると、社内の空気も変わっていきました。

「未来を見せることで、徐々に理解が広がっていきました」
沖氏が最も重視しているのは「先を見越すこと」です。
「とにかく前を見て仕事をする。新しいことにチャレンジする。成功すると思えばチャレンジしてもいいと思います。失敗したらすぐ下がればいい」
「チャレンジは何回してもいい。ただし、ダメだったら、そのままではなく次のことを考える。先を読んで仕事をしてほしい」
人材確保についても現実を直視します。
「地域では大卒はほとんど入ってこない。高専生や高校生、Uターン人材、中途採用を組み合わせながら、少しずつ増やしているのが現状です」
週休2日制の導入や昇給の実施など、環境整備にも力を入れています。
社内で徹底しているのは、「次の人を考える」という姿勢です。
「事業部長には、次の事業部長を考えておきなさいと言っています。ポジションに就いた時点で、次を育てる。それが組織の継続には必要です」
その長期視点が、100億、そして175億という目標を支えています。
株式会社タクス|
挑戦心を失わず、西日本のリーダー企業を目指す
株式会社タクスは、山口県下関市に本社を構える医療施設向けの介護食品やプロテインなどの粉末食品の個包装製造を手がける企業です。2006年の創業以来、着実に成長を遂げ、現在の売上高は37億円。代表取締役社⾧の赤築秀人氏は、2030年度に100億円という目標を掲げています。
赤築氏が経営者として最も大切にしているのは「挑戦心」です。
「挑戦心を失わず、新規の技術力を身につける。既存のものに満足せず、常に新しいことに取り組んでいきたい」
現在はブレンド加工が中心ですが、新たな技術を習得して製品バリエーションを増やし、多様な需要に対応できる体制を整えます。さらに、ペットフード事業への展開も視野に入れています。
若い頃はオーストラリアに留学し、帰国後はホテルのバーテンダーとして働いていた異色の経歴の持ち主。20年前、父親(現会長)とともに会社を立ち上げました。
「10人規模の小さなスタートでしたが、当時から挑戦したいという思いは変わりません。最短距離で夢を実現したい。その気持ちが原動力でした」

同社が掲げるのは、「西日本で確固たる地位を築くこと」です。
「東日本や東海には食品製造の拠点が集中しています。歴史ある企業も多い。だからこそ、まずは西日本でトップをめざそうと考えました」
と赤築氏。
さらに、西日本は門司港、博多港、神戸港といったアジア圏への輸出拠点を擁し、地理的優位性もあります。
「この地の利を活かして、“西日本にタクスあり”と言われる企業にしたい」
100億達成へ向けた課題は営業力の強化です。2024年には東京営業所を開設。工場と連動した提案営業体制を整えました。
採用面でも、新卒・中途の両面で人材を確保。大学と連携し、データ処理や機械設計人材の確保を図り、組織基盤を強化しています。
「新しいことにチャレンジして売上を伸ばしていく。そして、生産性を上げ、利益を生み、その成果を従業員や取引先に還元する。それが経営者の責務です」
100億は通過点にすぎません。
「100億で終わりではない。その先もめざします。新技術を取り入れ、異分野にも挑み、トレンドを見極めながら事業を強化していく」
挑戦を止めない限り、成長も止まらない。赤築氏の言葉には、その確信がにじんでいました。
チョイスジャパン株式会社|
通販から製造へ。第2創業で挑む100億への道
チョイスジャパン株式会社は、山口県下関市を拠点に、健康食品を中心とした通販事業を展開してきました。現在の売上高は18億、従業員15名。代表取締役の岡本昭宏氏がめざすのは、2033年度に100億円という目標です。
岡本氏にとって、この100億宣言は「第2創業」とも言える決断でした。
「以前、事業承継で全事業を売却し、一度は引退するつもりでした。50歳を過ぎて、もう終わらせようと思っていたのです」
しかし、縁があって再び事業を立ち上げ、経営の最前線に戻ります。
「また同じフェーズに立っている。ここで引くのか、もう一度挑戦するのか。その決断として、100億宣言を掲げました」
チョイスジャパンが次に踏み出すのは「売る側」から「つくる側」への転換です。これまでは通販や卸売を中心に展開していましたが、今後は自社工場を設立し、ウェルネスフードの製造に乗り出します。

「通販での100億と、製造での100億は全く違います。製造の方が、はるかに重い」
その「重さ」とは、リスクと責任の重さです。
「これまではOEM製造に依存していたため、開発の自由度や供給スピード、原価管理に制約がありました。自社工場を持てばコントロールできるようになりますが、その分、投資リスクも背負うことになる」
それでも製造に踏み切るのは、日本の製造業の力をもう一度取り戻したいという思いがあるからです。
同時に、100億をめざす上では、「一緒に走りきる人材」が不可欠だと岡本氏は語ります。
「志を持った若い世代を、経営者をめざす人材へと育てていきたい。事業承継を考えれば、60歳になる前に次世代を育てなければならない」
「まだ手を挙げてくれた人はいません。でも、きっと現れると信じています」
100億宣言以降、岡本氏は肌感で可能性を感じているといいます。
海外展開も重要な柱です。3年前にベトナム事務所を設立し、昨年は販売会社を立ち上げました。FSSC22000など国際認証の取得も視野に入れています。
「海外市場を見据えるなら、グローバル基準での品質管理は不可欠です」
製造と販売を両輪で回し、国内外へと事業を広げる。その先に描くのは、地域に根ざしながら世界とつながる企業像です。
株式会社ひびき精機|
職人を育てる仕組みで、100億への道筋を描く
株式会社ひびき精機は、航空・宇宙・半導体分野向けの精密加工部品を手がける製造業です。
2025年4月に代表取締役社長に就任した松山功氏は、直後から設備投資や事業の成長戦略を考え、100億宣言を表明しました。半導体産業と航空宇宙産業の両軸で、売上高各50億、総額100億円達成をめざします。
「経営者として1番意識しているのは、社員のモチベーションをどう保つか。それが全てです。さらに、うちの社員の強みは、難しい加工品が来たらなんとか超えてやろうという胆力にある」
松山氏はこう語ります。難しい仕事に挑戦すれば、自然とスキルは高まり、会社も成長する。その「未来をつくっていく」のが社長の仕事だといいます。
しかし、その流れを持続するには課題もあります。最大の課題は「ものづくりへの好奇心」です。同社ではデジタル化を進める一方で、職人技術の継承にも力を入れています。
「仕組みで作るものづくりと、職人がやるものづくりでやりがいが分かれてしまう。このままだと職人が減ってしまいます」
「若手社員は仕組みでものをつくってしまっています。この仕組みでつくっている若手社員をできる限り、人の感覚でものをつくる職人になってもらえるような仕組みを用意しないといけない。」
航空宇宙の仕事は、決められた仕様通りに製造する側面が強く、若手でも仕組みを整えれば対応可能です。そこから加工技術の面白さに目覚めた社員が、より難度の高い半導体分野へ挑んでいく。この循環を作ることが、重要です。

100億宣言を通じて、松山氏が最も強く感じたのは「コミュニティの大切さ」だといいます。
「100億のロードマップを描くには、思いだけでは人を動かせません。ビジョンや事業計画をきちんと作る必要がある。それを学べる、身近な先輩経営者とつながれる場が必要でした」
地域の中小企業同士のコミュニティづくりや、企業間連携による新たな価値創出の機会づくりにも積極的に取り組んでいます。
人材確保に向けては、教育委員会と連携し、学校の先生に中小企業やスタートアップの魅力を伝える取り組みも進めています。
「先生が生徒さんに口コミで伝えてくれる。そこから興味を持って応募してくれる方が増えています」
技能を持つことがAI時代においても価値ある人材になる。その気づきを若い世代に届けることも、100億円への重要な一歩です。
100億を起点に未来と社会をつなぐ
4社4様の成長戦略。それぞれの背景も課題も異なります。
しかし共通していたのは、100億という数字を単なる売上目標にとどめていない点でした。
次の世代への責任。地域への還元。仲間との共創。
100億は、覚悟を可視化する装置です。
人材、投資、技術、組織。
その選択の一つひとつが、企業の未来を形づくります。
山口から、確かな挑戦が動き始めています。
