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2026年2月26日
アパレル産業を変革し、世界へ
——「ニット」で挑む、100億企業への挑戦
株式会社CFCL 代表取締役副社長兼COO 松浦直彦 氏

日本発祥のファッションブランドが、世界でどこまで戦えるのか。
その問いは、感性や才能だけでは答えの出ない、産業としての現実を突きつけます。
株式会社CFCLは「ニット」に特化した戦略で、その壁に真正面から挑んでいます。

東京都渋谷区に本社を置くCFCLは、ニットアパレルの企画·製造·販売を一貫して手がける企業です。ブランドを率いるのは、代表兼クリエイティブディレクターの高橋悠介氏。そして、代表取締役副社長COOとして、経営を担うのが松浦直彦氏です。

同社は、日本発祥のグローバルハイブランドをめざし、「100億宣言」を表明しました。それは単なる売上目標ではありません。「アパレルを、ニット産業を変える」という意志を、社内外に示す宣言でした。

異業界からファッションへ——産業としてのアパレルに賭けた理由

松浦氏のキャリアは、ファッションとは対極にある世界から始まりました。米系投資銀行での8年間、そしてプライベート・エクイティ・ファンドでの9年間。世界的ブランドへの投資を通じて、彼の中には次第に、ある確信が芽生えていきます。

「日本のものづくりは、この国の基幹産業になり得ます。47都道府県それぞれが独自の歴史を紡いできた日本は、世界でもまれな文化の集積地。この土壌から生まれるソフトパワーこそが、今後日本の成長を支える源泉になるはずです」

AIによる複製や自動生成が加速する時代において、日本のクリエイションは強力な武器を持っています。それは、土地や人に根ざした「オーセンティシティ(真正性)」という、安易に模倣できない価値です。創造性を強みとする日本のクリエイションは、グローバル市場においても競争力を発揮します。

そうした未来を見据えていた松浦氏が出会ったのが、若くしてISSEY MIYAKE MENのデザイナーを務め、世界の舞台に挑戦するため2020年に独立した高橋悠介氏でした。

「世界と戦うには、デザイナーがクリエイションに120%集中できる体制が不可欠です。早い段階で、ビジネスのプロをパートナーに迎えるべきだと思いました」

松浦氏はそう助言し、やがて自らの参画を決断します。

高橋氏の圧倒的なクリエイションに、松浦氏が培ってきた事業成長の手法を掛け合わせる。デザイナーと経営の戦略家という理想的な組み合わせを得て、CFCLは一気に事業成長を加速させました。

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生産DXが可能にした、ニット特化という成長戦略

CFCLの最大の特徴は、ニットに特化したビジネスモデルにあります。これは単なるデザインの嗜好ではなく、グローバルで勝つための戦略でした。

「衣服は、『布帛(ふはく)』と『ニット』に大別されます。布帛は裁断や縫製など多くの工程を人手に頼る労働集約型であるのに対し、ニットは工程の大部分をコンピュータープログラミングと機械で担う設備集約型です」

ニットは生産拠点によるコスト差を抑えやすく、一定の条件さえクリアすれば世界中で同品質のものづくりが可能になります。

一方、市場においてニットは長らく、カジュアルな秋冬物というイメージに留まってきました。その既存のイメージを、高橋氏のクリエイションが更新しようとしています。

「私たちが挑んでいるのは、あらゆるオケージョンやシーズンに対応するニットウエアです。アパレル市場におけるニット製品のシェアを現在の1~2割ほどから少しでも引き上げ、ニット産業全体の可能性を拡張することがCFCLの使命だと考えています」

こうした挑戦をビジネスとして成立させるためには、商品の高付加価値化と同時に、持続可能な原価構造と製造体制を築く必要がありました。

製造コストの在り方そのものと向き合う覚悟が、求められたのです。

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10億円の投資で挑む、ニット業界の再生

CFCLが事業を国内外に拡大するにあたって、取引工場へ一方的な値下げや設備投資を求めるのは、本質的なアプローチにはならないと松浦氏は考えました。日本のニット産業には、構造的な規模縮小を経験してきた歴史があるからです。

かつて日本のニット製品の半分以上は国内で生産されていました。しかし、価格競争の激化により生産は急速に海外へ移転し、現在の国内生産比率は1%未満にまで低下しました。

「過去の歴史を踏まえずに、CFCL を支えてくれている工場に一方的な値下げや設備投資を強いることは、絶対にしたくありません」

この言葉には、経営判断であると同時に、産業への強い問題意識がにじみます。日本のニット産業を再興するため、CFCLは製造業としてのリスクを自ら引き受ける決断を下します。自社工場の設立です。

世界への展開を拡大しているCFCLは、継続的に生産量を増加させる必要があります。その増加分を主に自社工場が担い、既存の取引工場には各社の意向に応じて安定成長を達成するように、無理な拡張を強いず、製造業としてのリスクを分かち合いながらニット産業全体の再生をめざしています。

また、CFCLは取引工場をWeb上で公開し、第三者が工場に連絡できるようにしています。ブランド運営の点からすると模倣商品や取引がなくなるリスクをともないますが、この決断にはCFCLとしての想いがありました。

CFCLとの取引が信用となり、工場が新たな取引機会をより良い条件で得られるのであれば、それはニット産業全体にとってはプラスになる。それが、CFCLの姿勢を象徴しています。

さらに自社工場は、若手人材の育成インフラとしても機能することを企図しています。

「服飾学校の卒業生がニット産業に挑戦したくなる環境を提供したい。都心へのアクセス、働きやすい労働環境、適正な給与、そして世界に挑戦するクリエイション。5~10年後には、CFCL でそのまま活躍してもいいし、地元に戻って産業を盛り上げてもらったり、独立をしてもいい。CFCLの工場を、ニット産業全体の人材育成インフラにできたらいいと思います」

CFCLは、アパレル企業として「出口の責任」にも真正面から向き合っています。

「服を売るだけで終わらせず、その後の循環までをデザインする。私たちが衣服を回収し、新品と同じ空間、同じ顧客体験でブランド認定の二次流通商品を販売しているのは、その取り組みの一つです」

コレクションブランドの直営店舗での新商品と二次流通品の同時展開は、業界でも非常に稀な試みです。それでも、ファッションの循環型エコシステムを構築しようとする姿勢は、高く評価されています。

ニット産業を、そしてファッションの未来をもう一度盛り上げていくために、CFCLは業界の常識を問い直しながら、課題を一つずつ解決し続けています。

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人に投資する組織が、グローバルブランドをつくる

現在、CFCLは22カ国で販売を展開しています。韓国では新世界グループと提携し、5年で10店舗程度の展開を計画。他にも中国、台湾、香港、シンガポール、オーストラリア、ヨーロッパ各国へと、着実に販路を広げてきました。

それを達成するための組織戦略として特徴的なのが、人事制度です。CFCLは全社員にストックオプションを付与しています。対象は社内にとどまらず、業務委託や外部協力者にも広げています。そしてCFCLのストックオプションは、経済的な利益だけではなく、企業理念を共有するための仕組みでもあります。

「典型的なストックオプションと異なり、会社の状況にあわせて毎年現金化できる機会を作る仕組みで、すでに過去2回、社員に還元してきました。1人あたり数百万円規模になることもありました。現金報酬は生活を支える手段として、ストックオプションは夢や自由を実現する手段として位置付けています」

その結果、店舗スタッフの離職率は現時点で0%。2022年10月の1号店オープンから、誰一人として辞めていません。離職率が高くなりがちな職種において、異例の数字と言えるでしょう。

さらに、一定の職位に到達したオフィス勤務の社員は、世界中どこからでも働く機会があります。また、グローバル組織を支えるのは、徹底した情報共有とコミュニケーション基盤です。チャットシステムで全情報をオープンにし、意思決定のプロセスが可視化され、組織全体で共有されています。

店舗展開でも厳格な戦略を貫いています。

投資回収期間と損益分岐点を厳密に管理し、条件を満たさない出店は行わない。緻密な分析のもとで高い収益性を実現し、黒字経営を続けられていることが、次の展開を可能にしています。

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アパレル産業の歩みにCFCLの名を

「100億宣言をしていなくても、補助金がなかったとしても、将来的に企画·製造·販売のサプライチェーン3つを事業に備える構造転換は行っていたでしょう。しかし、成長加速化補助金という支援があったからこそ、今このタイミングでの工場の設立が可能になりました」

松浦氏は、補助金の存在が決断を早める後押しになったと振り返ります。さらに、より大きな変化として強調するのは「100億宣言」が組織にもたらした影響です。

「社員の中に『自分たちは成長していくんだ』という覚悟が生まれました。経営層だけでなく、メンバー同士が自発的に『どうすれば売上を伸ばせるか』を考え、納得いくまで議論を重ねるようになりました。リスクがあるから行動しないのでなく、まずは実行し、走りながら修正していこうというマインドへの変化が起きています」

100億宣言という外部に向けた明確なビジョンの発信が、組織内の変化を促しました。ブランドを「自分たちの手で作るもの」として捉える意識が芽生え、強い一体感が生まれました。

松浦氏が掲げる目標は三つあります。

CFCLを日本発祥のグローバルブランドにすること。
ニット産業、ひいてはアパレル全体に貢献すること。
そして、CFCLの名を、アパレルの歴史に刻むことです。

これらの目標から思い描かれるのは、CFCLが誕生する前と後で、アパレル産業が、そしてニット産業が変わったと評される未来です。

その言葉は、決して誇張ではありません。これまで積み重ねてきた選択と実行の延長線上にある、現実的な未来像でもあります。

本社のショールームに足を踏み入れると、華やかでカラフルなニットの世界に引き込まれます。

美しいシルエットをみせる立体的なスカート、透け感とドレープをあわせ持つドレス、ニットとは思えないほどの張りを持ちながら肩にかけると身体にしなやかに寄り添うバッグ、そして構築的なフォルムを備えたテーラードジャケット。

シーズンごとに新しい色味が加わり、ここにあるアイテムひとつひとつが、最善を求め、選択し続けてきたCFCLの歩みそのものです。

ニットブランドという選択も、工場への投資も、100億宣言も。
すべては、日本発のブランドとして、世界で持続的に戦うための必然でした。

そしてその挑戦は、いまも続いています。

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